金木犀


 甘い。

 橙色のイヤフォンを耳にさし、「登校」と書かれたプレイリストを流しながら通学路を歩く。気分が落ち込みがちな登校も、爽やかな水色の空と、ふわふわの雲が相まって今日の気分は高揚していた。

 一番大好きな曲が流れた所で公園に辿り着く。金木犀に囲まれた公園は秋になるといつも訪れていた。私にとって大切な場所だった。

 地面に敷きつめられた、橙色の花弁。それらを踏み潰さない様に爪先立ちでひょいひょいと歩いた。公園の奥にある大きな木に取り付けられたブランコに座る。ブランコを漕ぐたびに舞い散るそれらは、私を包み込んで甘い空気を身体いっぱいに満たした。しばらく漕いで清々しい空気に満足した私は、毎日履いているチェックのスカートを翻しながら華麗にジャンプし、側に置いた鞄を手に取る。スマホで時間を確認して溜息をついた。

「──はぁ、行かなきゃ」

 鞄の底に付いてしまった花弁をそっと払ったら、止めていた曲を巻き戻して、もう一度大好きな曲を流す。

 行かなきゃいけないと思っていても、憂鬱な気分は変わらなくて。結局そのまましゃがみ込み、花弁を拾い集めて眺めていた。

 何処かに落とした楽しかった思い出も、こうやって拾い集められたら良いのに。

 どうしようもなく悲しくなって、集めた花弁は手から零れ落ちた。

 昨日机に飾られてた花は、乱雑に鞄に突っ込まれ萎れている。手持ち無沙汰になったことに不安を隠せず、それを手に取り冠を作った。

 私は必要ない人間なのだろうか。

 完成した冠が可愛いことに腹を立て、ゴミ箱にそのまま捨てる。はらりと舞う金木犀は、そんな私を慰める様だった。

 空は揺らぐ。金木犀の匂いと一緒に、私もこのまま消えてしまいたい。

 ああ、もういっか、さよなら。

 それは、甘い。甘い空気だった。




あとがきの様な

 これを聴きながら書きました。とっても素敵な曲なので是非。

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